第一話
http://warpworld.diarynote.jp/201106270122556106/
第二話
http://warpworld.diarynote.jp/201106272256543986/
第三話
http://warpworld.diarynote.jp/201106282122119793/
第四話
http://warpworld.diarynote.jp/201107060151067366/
外伝
http://warpworld.diarynote.jp/201107210056221559/


前回のあらすじ

続唱を駆使するワープワールド教団の刺客《血編み髪のエルフ/Bloodbraid Elf(ARB)》に苦戦する光輪達。絶体絶命のピンチにレガシー環境の覇者《軽蔑するエーテリッチ/Scornful

AEther-Lich(CON)》が現れた。

「聞いていない」

寸でのところで攻撃を躱す。鉛の鎧でも着けたかのように身体の動きが鈍る。恐怖心が疲労を何倍にも膨らませている。

「聞いていない」

奴は知っていた。『畏怖』が攻撃を通すためだけの力ではないことを。理屈では証明できない底から来る恐怖心だ。

血編み髪のエルフが受けた命令は悪斬の天使の破壊だった。手を出すなと言われていた「上」のお気に入りの天使と、ストレージに屯するカスレアの悪魔と一緒にいると報告を受けたが

負ける気はしなかった。奴が現れるまでは。

「いい加減観念したらどうかな。女性を手にかけるのは趣味じゃない」

そう言いつつもエーテリッチの攻撃は止まない。血編みを倒す最低限の攻撃を際限なく続ける。隙がない。常に仲間を遮る位置に立ち自分以外に攻撃をさせない。

「これが『警戒』っっ・・・ああもう焦れったい!!」

痺れを切らした血編みが無差別に続唱を発動した。火山の流弾が出れば瀕死の悪魔と鳥天使は終わりだろう。悪斬は無理にしても、先ほど稲妻を食らったエーテリッチもただではすまな

い筈だ。

「これで終わりなんだからあああああっ」

「しまっ-」

エーテリッチが身構える。辺りに閃光が走った。

「勝った!ワープワールド教団編完!・・・あれ?」

血編みの足下に柔らかな草地が広がった。

「これは、《豊穣の痕跡/Trace of Abundance》?」

殺風景なストレージ通りに不似合いな五色を生み出す血編みの足下に反して彼女自身の顔は真っ青になった。それは同時に大きな隙を生んだ。

「終わりだ」

攻撃は一瞬だった。エーテリッチに気を取られすぎて悪斬を視界に入れるのを怠った。いや、これも警戒で仲間を背に立ち回ったエーテリッチの作戦のうちだったのか。

悪斬が剣を鞘に収めると同時に血編みが墓地へ吸い込まれていった。

「お見事。うわさ通りの戦闘力だ」

「いえ、貴方が助太刀してくれたからこその勝利です。しかしどうして貴方がこんなところに何のようですか?」

「君と目的は同じさ。倒さないといけない相手ができたのさ」

「貴方もワープワールド教団を?」

「ああ。スタンダード界のメタを脅かす存在を見過ごすわけにはいかない」

「エーテリッチさん」

体力を取り戻した光輪狩りがよろよろと立ち上がる。

「久しぶりだな光輪」

「お久しぶりです。また助けられてしまいました」

「困った時はお互い様さ。しかしお前がまさか天使と一緒にいるとは思わなかったがね」

「たまたまですよ。別に仲間じゃない」

「そうです。彼と、そこにいるエメリアは私のせいで教団の被害を受けただけです」

傷ついたエメリアを介抱しながら悪斬が答えた。

「さっきから言ってるその教団って何なんだよ。この前のデカいビーストもその教団ってやつなんだろ」

「私も知りたい」とエメリアも答えた。

悪斬は困惑した表情でエーテリッチを見た。

「彼女は君たちを争いに巻き込みたくないんだ。教団について知れば君たちも狙わr」そこまで言ってエーテリッチが口を閉じた。既に二人は教団に襲われていたのだ。

「手遅れなんだよ。既にな」

光輪が手首の光輪を回しながら答えた。悪斬は「すまない」と項垂れた。

「さっきの奴らは『ワープワールド教団』。《歪んだ世界/Warp World》を駆使しメタの独占を目論む組織だ。レガシー界でも暴れていたが、まさかスタンダードにまで手を伸ばすとは」

「理由はそれだけか?お前がそんな正義感に溢れた奴には思えないな。そこのパンツ天使じゃあるまいし」

光輪を怒鳴る力が残っていないエメリアがきっと光輪を睨んだ。

「それは・・・」

少しの沈黙の後悪斬が口を開いた。

「教団は・・・私の姉を誘拐したの」

「誘拐?もしかして《セラの天使/Serra Angel》さん?」

悪斬が静かに頷いた。

「やはりか・・・」

「姉を取り戻す。それが私が教団と闘う理由」

「そんな酷いことがあったのね・・・」

「大丈夫。これ以上あなたたちに迷惑はかけない」

「敵は強大だ。覚悟の無い者は闘うべきではない」

エメリアの言葉をエーテリッチが遮った。

「何言ってんのよ!うちの鳥達が何羽やられたと思ってんのよ!あいつら絶対に許せないんだから!」

「それは、確かにそうだけど」

「もう遅いよ。あいつらは悪斬ちゃん達の敵でもあるし、私の敵でもあるの。嫌でも協力させてもらうんだからね!」

悪斬はエーテリッチと顔を見合わせ、諦めたふうにため息をついた。

「わかった。一緒に教団を倒そう。三人いればきっとできる」

「本当にパンツ天使はお人好しだな」

話しを聞いていた光輪狩りが気怠そうに欠伸をした。

「あんたは協力してあげないの?」

エメリアが言った。

「はぁ?何で俺が天使のために天使に協力しなきゃなんねえんだよ。俺は光輪狩り様だぞ。むしろ天使を狩る側だ」

そう言われ、悪斬は何も言わず俯いた。

「何よそれ!そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!私の時はちゃんと助けt―」

「いいんだ。言っただろう。覚悟のない者を巻き込むわけにはいかないんだ」

エーテリッチが怒り心頭なエメリアを止めた。

「そうだ。それでいい。これは私の問題だ。この件が済んだらちゃんと相手をしよう。それまで待っててくれ」

「そうさせてもらうわ」

「・・・最低」

手をひらひらと振って立ち去ろうとする光輪狩りにエメリアが小さく呟いた。

「じゃあ俺はそれまで暇つぶしに俺に喧嘩を売った教団をぶっ潰してくるわ」

「・・・えっ?」

俯いていた悪斬がきょとんとした顔をした。

「お前らなんか関係ねえ。俺は売られた喧嘩を買うだけだ」

「そうか・・・フフッ」

状況を理解し、悪斬が小さく笑った。

「光輪・・・素直じゃないんだから!」

「さあ、反撃開始だ!」



~~~~~


「血編み髪のエルフがやられたね」

「血編みちゃん・・・」

「エーテリッチが悪斬側についたのが計算外だったな。奴は手強い」

「そろそろ本格的に動かねばならないようだな。エーテリッチは俺がやる」

「お前から動くとは珍しい」

「奴とは少し縁があってな」

「誰かが戦わないといけないんだ。モチベーションが高い方が良いに越したことはないよ」

「そうだな」

「私は・・・」

~~~~~


ゼンディカー高校の始業のチャイムが鳴った。

「あれ?あんたが朝からちゃんといるなんて珍しいじゃない?」

眠そうにする光輪狩りにエメリアが話しかけた。

「うるせーな。こういう時もあんだよ」

「そこうるせえぞ!!聞けお前ら!!」

担任のサルカンが怒鳴った。

「一限の『応用ビートダウン学』を始める前に今日は転校生がきている!お前ら仲良くしろよ!」

「転校生だってさ」

「どうでもいい」

光輪狩りは机に突っ伏して眠りにつこうとしていた。

再び教室がざわつく。扉が開き、その姿を見て教室がさらにざわついた。

「やべえ・・・超可愛いんだけど」

「+3/+0修正きたわ」

「墓地に置かれたい」

あまりのざわつきに寝るのを諦め光輪が頭を上げた。前の席でぽかんとするエメリアを見た後転校生を見て光輪も口をあんぐり開けた。

「では自己紹介!!」

「エムテン学園からきました。悪斬の天使です。特技はプロテクション(デーモン・ドラゴン)です。よろしく」


続く
薄暗い路地を一人のクリーチャーが進む。瘴気を帯びた空気が青黒く光る鎧に纏わり付く。纏わり付くのは瘴気だけではない。様々な場所からねっとりとした視線をそこら中

から感じた。

「お兄さん。この先に何か用かい」

道端の岩穴からからすっと現れた古いクリーチャーが鱗で覆われた顔だけ出して話しかけてきた。

「ああ、ちょっとね」

「やめときな。兄さんこの先がどんなに狂ってるかわかってないよ。たまにいるんさ。力試しにスタンダードからやってくる若いのが。それのほとんどは圧倒的実力差にやら

れて大人しく帰ってくる。悪いことは言わない。普通-スタンダード-のデッキじゃ速度が違うのさ。ZooにANT、フルバーンにワープワールドや親和…みんなバケモノばかりさ

…」

「別にそういうわけじゃないさ。ただ、あっちの世界にいつ奴に用があってね」

「…?」

「《タルモゴイフ》を知ってるかな?」

老クリーチャーの顔色が変わった。両腕の爪がカタカタと震え出す。

「あいつには関わるな・・・あいつは最近入ってきた奴だが格が違う。エラーだったのさ。あいつは産まれてきてはいけないクリーチャーだった・・・」

「やはりか…」

「まさか、兄さんあいつを倒そうっていうんじゃないだろうな!?無茶だ!!奴は異常なんだ!!あいつのせいで何種類のクリーチャーが環境から駆逐されたか・・・」

「ああ、知ってる。だから貴方もこんなところにいるんでしょう?《サイカトグ》さん?」

サイカトグは目を丸くしてそのクリーチャーを見た。

「何故わしの名を・・・もう誰もわしのことなんて忘れてしまったと思ってたわ・・・あんたは・・・黒のクリーチャー・・・?いや違う。青か。しかし黒や白のマナも感じ

る。アーティファクト・クリーチャーなのに・・・兄さんもしかして色を持っているのかい?何者なんだ?」

「なぁに、ただのおせっかいなアンコモンですよ」

クリーチャーは漆黒のマントをひらつかせ奥へと進んでいった。



マナクリ家のエリートとしてこの私、《貴族の教主/Noble Hierarch(CON)》は生まれた。偉大なる先祖極楽鳥と同じく青のマナを生むことが出来、戦闘の手助けもできる。そ

んな私がレガシーで活躍するのは必然だった。誰もが私を羨んだ。私の勝ちが1000円を切ることは無かった。実力があったからだ。そんな私には一つだけコンプレックスがあ

った。そして今私の目の前にはそのコンプレックスを大いに侵害するクリーチャーがいた。

「あんた何でこんなとこにいんのよ。スタンでもろくに活躍できないくせに。目障りなのよね。消えてくれない?ここは選ばれたエリートのみがいていい世界なの。わかる?

外見だけで値段が高いだけのあんたがいていい世界じゃないの!!」

そうだ。私の唯一のコンプレックス。生まれながらにして「賛美ババア」と呼ばれてしまう醜い外見だ。一方私の目の前にいるクリーチャーときたら、大した能力も無いくせ

に外見が良いのでそこそこの値段がする憎い女だ。本当に憎たらしい。

「そう言われてもね、頼まれちゃったのよ。『力を貸して欲しい』って彼に。従うしかないよね」

「はぁ?何?じゃあそいつに頼まれたからってこんな危険な場所まできたわけ?バッカじゃないの!?女に助けを借りる男なんて最低じゃない!女は後ろで戦闘する男をサポ

ートするのが当たり前じゃない!!」

「それもいいけどね。でもね―」

女の長く伸ばした金髪がはらりと揺れた。答えなんて表情でわかった。

「うるせえリア充がああああああああ!!そんなノロケ聞きたくねんだよおおおおおお!!」

後ろで控えていた《野生のナカティル/Wild Nacatl(ALA)》ニ体が女クリーチャーに襲いかかる。辛うじて攻撃をかわすが、パワーが1しか無い彼女に平地と山を置かれ3/3にな

ったナカティルニ体に敵うわけもなく徐々に墓地際に追い詰められる。

「クタバレよ阿婆擦れが!外見だけのクセにいいいいい!!死ね!!ここはレガシーなんだよおおおお!!《練達の変成者/Master Transmuter(CON)》ああああああああ!!」

二対の牙が変成者に襲いかかる。

「でもね、大丈夫なの。私がピンチの時は…彼がちゃんと助けてくれるから」

変成者が小さなアーティファクトを放った。彼女が何かつぶやくとそれはたちまち姿を変え、一体のアーティファクト・クリーチャーに変わっていく。

ナカティルの爪が蒼黒い鎧に阻まれ動きが止まる。

「何だお前は!」

変成者を護るように立ちはだかる鎧のクリーチャーがそこにいた。

「遅いじゃない!危うく墓地にいくところだったわ!」

鎧のクリーチャーが頬を膨らます変成者をなだめるように口をひらいた。

「すまない。少し到着が遅れてしまった。だが許して欲しい。そして約束しよう。もう君のエーテリウムに爪の跡がつくことは絶対にありえない。私がきたからね」

「当然じゃない。全力で私を護りなさいよね。こんな美人がサポートしてあげるっていうんだから!」

鎧のクリーチャーがこちらを向く。それだけで貴族の教主の背筋を凍らせるには充分だった。

一人のプレインズウォーカーが以前こんなことを言っていた。

『肉体が無ければ、苦痛も無く、躊躇も無く、あらゆる感情も無いのです。その造りは完璧ですね』

「《軽蔑するエーテリッチ/Scornful AEther-Lich》・・・エスパーの断片で最も冷徹で最も熱い男」

「ご存知とは光栄だ。貴族の教主さん。でも悪いが倒させてもらう。貴方は手を出してはいけないものに手を出した。私の美しいものに」

「うるせええええええ!!エスパー界で有名でも所詮はスタンダード級だろうがあああああ!!お前も一緒にくたばれやあああああああ!!」

再びニ体のナカティルが襲いかかる。変成者をかばいナカティルの攻撃を受けるエーテリッチ。しかし致命傷には至らない。

「女性のヒステリーは醜いぞ。美しくありたければ自分の持ち味を活かせ!」

「うるさい!黙れ!お前に私の気持ちなんてわかってたまるか!!ババアと呼ばれる私の気持ちが!!」

「エーテリッチ!これを使って!」

変成者がエーテリッチにアーティファクトを投げる。

「これは…《卓越の印章/Sigil of Distinction(ALA)》!ありがたい」

印象を装備し、ナカティルに襲いかかる。致死量のダメージだと判断し、ナカティルは近くにあった《根の壁》に隠れた。

「いくらパワーをあげようが当たらなければどうってことn―」

ナカティルの胸部に深い一撃が当たった。

「馬鹿なッ・・・ちゃんとブロックしたのに・・・」

「回避能力は紳士の嗜みだ。あまり私の『畏怖』をなめないほうがいい」

攻撃を受けナカティルが墓地に沈む。その刹那。

「ヒャッハァwwww何が守りぬくだよwwwwww攻撃にいってちゃブロックできねえじゃねんwwww」

教主の賛美を受け一回り巨大になったもう一体のナカティルが変成者に襲いかかる。

「くたばれえええええええええ!!」

教主が叫ぶ。

「何言ってんのよ」

変成者が冷静に答えた。

「私のエーテリッチが女の子ほったらかすようなことするわけないじゃない」

「へ?」

「その通りだ」

ナカティルの目の前に信じられない光景が現れた。先ほど攻撃に行っていたエーテリッチがいつの間にか自分と変成者の間に入ったのだ。

「警戒は女性を護る『紳士』の嗜みだ」

「能力二つだと・・・ふざk―」

変成者を襲うナカティルを印章で強化された杖で返り討ちにする。

「そんな・・・たかが一枚のアンコモンにやられるなんて・・・」

「確かに私たちは単体ではそれほど強くない。でもお互いに助け合えばどんな敵とだって戦えるの」

「君は自分の持ち味である賛美を活かさずに臆病にもニ体で攻撃に参加した。彼女は私を信じてわざと危険をさらした。自分の能力を信じられなかった君の負けだ」

「うわあああああああああああああああああ」

圧倒的敗北感で教主が膝から崩れる。

「さて、合流できたことだし目的を果たしにいきましょう」

「ああ、私達二人でタルモゴイフを倒す。そのために来たんだ」

「やれるわよ。私たちなら。」

「そうだな。絶対に変えてみせるさ。このタルモに支配されて腐りきった環境を…必ず…!」


軽蔑するエーテリッチ/Scornful AEther-Lich

アーティファクト クリーチャー — ゾンビ(Zombie) ウィザード(Wizard)
(白)(黒):軽蔑するエーテリッチはターン終了時まで畏怖と警戒を得る。(それは攻撃してもタップせず、それは黒でもアーティファクトでもないクリーチャーによってはブ

ロックされない。)
2/4

FT 肉体が無ければ、苦痛も無く、躊躇も無く、愛以外のあらゆる感情も無いのです。その造りは完璧ですね。 ~テゼレット


これはタルモゴイフに支配されたレガシー環境に立ち向かったとあるアーティファクト・クリーチャーの物語。






光輪狩り「…っていうことがあったんだぜ!エーテリッチさんマジかっけえよな!」

エメリア「またその話ぃ?もう何度も聞かされてるんだけど」

コブラ「すごいですね。エーテリッチさん。すごく強くて優しいんですね」

エメリア「光輪だって…たまには優しくしてくれたって…(ボソッ)」

光輪「ん?何か言ったか?」

エメリア「な、なんでもないわよ///」

コブラ「ふふ…」


『光輪君と悪斬ちゃん外伝~漆黒無双!!軽蔑するエーテリッチ編~』完
悪斬「か…勝てない…」

エメリア「無理だよ…こんなのおかしいよ…」

光輪「お前らは…下がってろっ…」

悪斬「無茶よっ…死んじゃう!」

光輪「そんなのやってみなくちゃわかんねぇだろ!!」

???「ぶるぁあぁぁ…いぃ度胸だぁ…いいだろう。同じ『コウリン』の名を持つものとしてぇ…絶対的な格の違いをみせてやるぉう…圧倒的にぃぃ絶望しるるおぉい!!」

光輪「畜生…やってやるよぉぉ!!!!!甲鱗!!!!!」

光輪「…夢か」


目が覚めるとそこはストレージ通りの外れだった。

意識を失う前を思い出す。ショーケースモールで例の天使を見つけ、戦いを挑もうとした直後に巨大なクリーチャーに遭遇し、相手の額に一撃を食らわせつつも体当たりが直

撃し相討ちしたのだった。

「召喚酔いが解けたか」

聞き覚えのある声だ。

「お前は、あの天使!」

そこにいたのは憎きあの天使だった。天使は特に何をするわけでなくただそこに佇んでいた。

「私は悪斬の天使だ」

「どうでもいい。しかし丁度いい!決着をつけてやるぜ!」

光輪狩りがいきり立って悪斬に襲いかかろうとする。

「ちょっと!何やってんの!」

これまた聞き覚えのある声だ。声のする方向を見るとエメリアの天使が鳥を引き連れこちらへ飛んでくるところだった。

「邪魔すんな。俺はこいつに用があったんだ。消えろ」

「何言ってんのよ!悪斬ちゃんはあんたの召喚酔いが解けるまであんたのこと防衛してくれてたのよ!それなのにいきなり襲いかかるなんてあんたほんと悪魔ね!」「オンシラズカ

゙!」

「はぁ?何でこいつが」

「それを言うならエメリアにも感謝するんだな。ショーケースモールからお前をここまで運んだのはエメリアだ」

冷静に悪斬が答える。それを聞いてエメリアの頬が微かに紅に染まった。

「べ、別にあんたのためにやったんじゃないんだからねっ!ただゼンディカー高校のクリーチャーがあんな危険なところにいたってバレたら怒られるのは私だからよ!」「ツンテ

゙レヤデ!!」

光輪狩りはぽかんとした表情で固まった。どうして天使にこんな扱いを受けるのか理解できなかった。

「まぁこの青パンツはともかく、何でお前までここにいんだよ。お前ゼンディカーのクリーチャーじゃないだろ」

「私は貴方に借りがあるの。私の代わりに猛り狂うベイロスを倒してもらったからね」

「ベイロス?あぁ、あのバカデカいビーストか」

「正直私一人では勝てるか怪しかった。助けてくれてありがとう」

「べ、別に助けたわけじゃねえよ。あんなやつにやられたら俺がお前を倒せないだろ」

エメリアの鳥に「オマエモツンデレカヨ」と囃されたのは無視した。

「てかなんなんだあのクリーチャーは。お前あんなんといつも戦ってるのかよ」

「違う」

「じゃあ何なの?あんなのに狙われたらいくら悪斬ちゃんでも危険だよ…」

エメリアが口をはさむ。

「理由は言えない。二人を巻き込んでしまう」

悪斬が俯いて言った。

「まぁ俺はお前のことなんざどうでもいい。俺はお前に勝てばそれでいい」

光輪が再び悪斬に襲いかかろうとしたその時だった。

「まぁもう手遅れなんだけどね★」

突然辺りを燃え盛る隕石が襲う。

「これは・・・《火山の流弾/Volcanic Fallout》!?」

流弾の直撃を受けエメリアの鳥達が力尽きる。

「これで邪魔なチャンプブロッカーはいなくなったね★あとはあんたらだけだよ!」

背後から一人のエルフが現れた。

「教団の刺客か…」

悪斬が剣を構える。

「それがわかってれば話は早いね!そゆこと!アタシ《血編み髪のエルフ/Bloodbraid Elf》!よろしくね★」

血編み髪のエルフはそういうと三人と向き合い戦闘の構えをとった。

「相手は私だけでいい。この二人は無関係だ」

「そういうわけにもいかないんだよね~あそこの安レアの悪魔はマグレとはいえ猛り狂うベイロスさんと相討ちしちゃったしぃ★」

安レアという言葉に光輪狩りが眉を動かす。

「ああん?アンコモンの分際でてめえ…」

「だってぇ、アタシアンコモンだけどキミより優秀だしぃ★」

それを聞き終わる前には既に光輪狩りは血編みに襲いかかっていた。

怒りに身を任せた光輪の一撃をかわす。衝撃であたり一面に砂埃が舞った。

「クソがっ…『速攻』持ちかよ!」

「それだけじゃないよ★」

攻撃をかわした血編みが光輪と距離をとって何かを囁いた。

砂埃をかき分け鋭い一撃が光輪狩りに命中する。

「お前にも見えていない弱点がこちらにははっきり見えているぜ!」

「刺客がもう一人!?」

悪斬が翼で砂埃を吹き飛ばす。血編みの側にもう一人のクリーチャーが現れた。

「《狡猾な火花魔道士/Cunning Sparkmage》だよ★」

「続唱ね」

悪斬がつぶやく。

「すっごぉい!もうバレちゃったか~まぁあと二人だしちゃっちゃと片付けちゃうかな★」

「二人?」

疑問に思った悪斬が辺りを見回す。はっと息を呑む。悪斬の視線の先には地面に倒れた光輪狩りの姿があった。

「あはは~結局レアなのにアンコモンに負けちゃったね!はずかしいね★」

「クソッ…」

腹部にダメージを受けて動けなくなった光輪狩りが唸る。

「あれ?まだやられてないの?しぶといなぁ」

そう言うと血編みは火花魔道士に合図をして光輪狩りにとどめを刺そうとした。

「待ちなさい!相手は私g―」

悪斬の発言をエメリアが遮る。

「私がやる」

「無茶よ…」

「こいつら私の鳥達をみんな焼いたの…絶対に許さないんだから!」

エメリアが杖を構える。背後に土地が現れ鳥が出現する。

「『上』からキミには手を出すなって言われてるんだけど…まぁいいか★じゃあ遠慮無くやっちゃうね!」

血編みと火花魔道士がエメリアに襲いかかろうとする。先程の流弾のダメージが残っているこの状況は正直厳しい。火花魔道士の炎を一発でも受けたら自分も光輪狩りと同じく立ってはいられないだろう。しかし負けるわけにはいかなかった。

鳥を使役し火花魔道士を襲わせる。しかし火花にやられ力なく鳥が撃ち落される。一方で血編みが新たな続唱を発動した。血編みの指の先から強力な炎が上がる。

「これは《稲妻/Lightning Bolt》!?いけない!逃げて!」

悪斬が叫ぶ。しかし手負いて自らを守る鳥も全て撃ち落されたエメリアにそれを躱す術はなかった。

稲妻が強力な光を放ち対象を焦がす音がした。悪斬の叫び声も聞こえた。異変に気づきエメリアは恐怖で閉じた瞳の力を緩めた。

「あれ…?私なんともない…?」

稲妻を受けて自分が無事でいられるわけがない。しかし何も痛みを感じ無い。ふと正面を見るとエメリアを護るように漆黒の鎧とマントをまとったクリーチャーが立っていた



「大丈夫かい?天使さん」

「は、はい…」

それを聞き静かに優しく頷く、そして漆黒の鎧のクリーチャーはゆっくりと血編みの方へと向かっていった。

「まさか…お前は…」

血編みがたじろぐ。声が震える。火花魔道士も彼の威圧感に圧倒されていた。

倒れていた光輪狩りが驚きの表情を浮かべその名を口にした。

「あなたは…け、《軽蔑するエーテリッチ/Scornful AEther-Lich》さん!!」

「久しぶりだな光輪狩り。みんなもう安心だ。私が相手だ。覚悟しろ…ワープワールド教団…ッ!!」
ストレージ通りを抜けショーケースモールへと向かう。あの天使を倒す前に別の構築級の連中に鉢合わせないよう周りを見回しながら足を進めた。構築級の奴に勝てないわけ

ではないが、そこで体力を消費したくなかった。

昨日やられた場所へ辿りつくが、目的の天使はいない。

「いない…か。どこにいやがる」

この場所以外に何も手がかりが無い現状で当てもなくこのショーケースモールを歩きまわるのは危険だった。

「ちょっと光輪じゃない!こんなところで何してんのよ!!」

背後からの甲高い声にすぐさま振り向き身構える。

「何だ、エメ天か」

背後にいたのは数羽の鳥を従えたエメリアの天使だった。

「何だとは何よ!!あんたまた誰かの光輪を盗ろうとしてんじゃないでしょうね!!そんなの許さないんだから!!」「ユルサネーゾ!!」「ダァ!!シエリイェッス!!シエリイェッス!!」

「だから盗ってねえっつの。てか今俺は忙しいからお前の相手なんてしてる暇ねえんだよ」

そう言って冷や汗を拭い光輪は踵を返した。

「そんなこと言ってまた罪の無い天使を…そんなことさせないんだから!!監視しないといけないようね!!」「ユルセンッ」「ダァ!!シエリイェッス!!」

ぶつぶつ文句を言いながらエメ天と鳥達が後ろから着いて来た。騒がしいことこの上無いが、追っ払うためのCIPをここで使うのが惜しかった。無視をきめ込み光輪は意を決し

てショーケースモールの奥へと足を踏み入れて行った。



~~~~



殺気を感じ悪斬の天使は足を止めた。

まだ熱の残る剣の柄を再び握る。

「ボガヘルをやったのはお前か?」

ボガヘルを上回る巨体のクリーチャーが言った。

「だとしたら…どうなるのかしら?」

「『教団』として同胞の敵を討たねばならない。俺の名は《猛り狂うベイロス/Rampaging Baloths(ZEN)》…ッ!」

そう言うと突如上空から無数の物体が降ってきた。

「これは…《進化する未開地/Evolving Wilds(ROE)》?」

ひらりと土地を躱す。しかし未開地は場に出るやいなやたちまち森へと変化した。

悪斬が土地に目を奪われている隙を狙ってか、悪斬に大型のクリーチャーが襲いかかる。それを目の端で捉えた悪斬が高速の斬撃で切り捨てた。

「(このビーストは4/4…?さっきの奴じゃない!?)」

そうしている間にもひとつふたつと土地が現れる。どうやら敵は複数のようだ。二体目のビーストを切り捨てて悪斬は確信した。

「『上陸』で仲間を呼ぶ能力ね…知り合いにもいるわ」

ビースト単体は大したことはない。しかし複数同時、もしくはあの本体が襲いかかってきたら。悪斬の脳裏に不安がよぎる。

「ほう、4/4程度屁でもないか!こりゃボガヘルがやられたのも納得がいくな!」

次々と降ってくる土地とビーストに隠れて親玉の影が見えない。

落ち着け。周囲を把握しろ。自分にそう言い聞かせる。

天候(ドロー)は土地。最悪だ。いや、近くに相手の有利になるエンチャントが無いだけマシか。そんなことを考えながら6体目のビーストを切り捨てる。

「そんな大きな図体してるんだから部下に任せてないでかかってきたらどう?」

賭けだった。長期戦になって体力を減らす前に親玉を叩けば勝機はある。問題はその親玉に自分が勝てるかだった。

「いいのか?では遠慮無くいかせてもらおうか!」

突如目の前の平地を突き破り巨大なビーストが姿を現した。先ほどの4/4など可愛く見える巨大なサイズ。それが自分めがけて突進してきたのだ。

「(防げないっ…)」

そう覚悟した瞬間目の前に二つの小さな影が現れた。

二羽の鳥だった。鳥達は悪斬を護るように立ちはだかった。

そんな鳥達など意に介さぬ(トランプル)ように巨体が悪斬に襲いかかる。

衝撃が身体全体に伝わった。骨がきしむ。数秒遅れて痛みが走った。頭がくらくらする。しかし

「生きてる…?」

鳥達のブロックによりかろうじて墓地送りは免れたようだ。

「悪斬ちゃん!大丈夫!?」悪斬のもとへエメ天が駆け寄る。

「エメリア…ということはさっきの鳥はお前が…」エメリアの天使が頷く。

「いったい何があったの!?」

「気にしないで…これは私の戦いだから」

痛みをこらえ再び剣を握る。あの一撃をもう一度食らえば命は無い。しかしここで逃げるわけにはいかなかった。

「クソッ!!トークンの分際で邪魔を…まあいい!次で決める!」

猛り狂うベイロスが再び突進すべく足を踏み鳴らした。次の一撃で決まる。その時だった。

「よう」

黒い身体が対峙する二人の間に現れた。

「見つけたぜ…って、何か随分弱ってんな」

「昨日の悪魔?」

「ああ、昨日の借りを返しに来た」

「悪いが私は今取り込み中だ。後にしてくれないか」

「え?あんたの用事って悪斬ちゃんなの!?えっ!?
ちょっと!どういう関係なのよ!」

騒ぎ立てるエメリアの天使を無視し、光輪が拳を突き立てた。

「お前の都合など知らん。さっさとその光輪をよこせ」

「邪魔をするなレア風情が!」

「…あん?」

光輪が振り返ると目の前にはこちらへ突進する巨大ビーストが迫っていた。

「どきなさい悪魔!!貴方じゃ勝てない」悪斬が剣を構える。

「こいつは俺の獲物だ!邪魔すんなあああ!!!」

突進する巨体に向かって光輪が殴りかかった。衝撃が辺りを包む。吹き飛ばされそうになる鳥達をエメリアの天使が必死で抱きとめた。

衝撃波に耐えた悪斬が剣を構え直した。しかしいくら待ってもビーストは襲いかかってこない。

砂埃が晴れていく。そこには信じられない光景があった。

地面に横たわる猛り狂うベイロス。その側で同じように倒れた光輪狩り。

「あのビーストを相討ちに持ち込んだっていうの…?」

自分に不意打ちを食らわせたあの悪魔にそんな実力があったのか。にわかに信じられなかった。しかし実際自分一人では勝てるか怪しいこのビーストを倒したのだ。

「いったい…なんなのこのビースト…ただもんじゃないわ…」

エメリアの天使が言った。

「こいつは―」

悪斬が口を開こうとした次の瞬間だった。周りに並んだ土地から大量の赤いマナが現れた。

「それ以上喋らない方がいいんじゃないか?こいつまで『教団』の的に回す気か?」

「誰だ!」そう言おうとして悪斬はどこか懐かしい不思議な感覚に囚われた。思うように動けない。

「ベイロス(こいつ)は回収させてもらう。今日のところは引き上げだ」

人型のクリーチャーがベイロスを引きずっていく。しかし身体が動かないので招待も確認できない。何故自分は動けず奴だけ動けるのか。『タッパー』?違う。『霜』?違う

。もっと強力な『上級呪文(ソーサリー)』を感じた。

「おや?」謎のクリーチャーが口を開いた。

「その能力は…お前がエメリアの天使か…なるほど」

「えっ?」

エメリアの天使は何がなんなのかわからず気の抜けた返事をした。彼女も動けないようだ。

謎のクリーチャーが猛り狂うベイロスと共に姿を消してから徐々に身体が動き出した。

「危険な目にあわせてごめんなさいエメリア」

「別にいいのよ。むしろほっとくわけにはいかないわ!」「ソノトオリヤデ!」「シエリイェッス!!」

「ところで、そこに倒れてる悪魔はどうするの?」

悪斬が倒れている悪魔を見た。

「ここはエクテン平原が近い。墓地リムーブに巻き込まれると厄介だ。私はプロテクションのせいで彼に触れないのだけれど…」

「大丈夫!この子達がいるわ!」

明るい声でエメリアの天使が言った。

「よくわからないけどいつの間にか鳥がすっごい増えていたの!」

エメリアの天使の背後には先ほどの数倍の量の鳥がいた。

「いつの間に…まぁいい。では鳥達に運んでもらおうか」

大量の鳥に光輪狩りを運ばせ、悪斬とエメリアの天使はその場を後にした。




~~~~




「猛り狂うベイロスがやられたのか!?」

「そんな…何者なの…?」

「いや、どうやらやられたのは例の天使ではないようだ。誰かは確認できなかった」

「ベイロスを倒すとは…かなりの実力者だな」

「それより、以前お前が言っていたエメリアの天使だっけ?彼女を見かけたよ」

「どうだった?」

「ああ、『教団』に欲しい逸材だった」

「彼女は傷つけてはいけないよ。そんなこと僕が許さない。彼女は僕のものだ…」

「まぁ、そこらへんは人の趣味だから何も言わんがな」

「まぁそれは置いといて、いよいよ本格的に例の天使には格の違いを見せつけねばならないようだ。我々の崇高なる目的の為にも」

「そうだね…」

「コブラ、お前が鍵だ。期待しているぞ」

「…はい」


続く






ストック使い切った。次回更新は未定。
「クソッ」

そう言って光輪狩りは足下の面晶体を蹴飛ばした。

「ごめんなさい。私プロテクション(デーモン)なの」

昨日言わてたその言葉を思い出すたびに怒りと悔しさが込み上げてきた。

「プロテクション(デーモン)ってなんだよ!意味わかんねえ!そんなの聞いたことねえよ!」

こんな屈辱を感じたのは久しぶりだった。ところ構わず当たり散らしたい衝動を抑え、光輪狩りは教室へと向かった。

「何だよお前マナクリのクセに無色マナすらマナ出せねえのかよwww」

「しかも2マナwww2ターン目に3マナ出せないとかwww」

《ラノワールのエルフ/Llanowar Elves(M11)》と《東屋のエルフ/Arbor Elf(WWK)》が誰かを囲んで騒ぎ立てていた。

「だって…土地が出無いんですもの…」

「はぁ?土地ならここにあんだろ?ほら、こうやってアンタップすんだよ!」

東屋のエルフが森をアンタップした。

「ほら、アンタップしたぞwwwこれでマナ加速してみろよwww」

「そうじゃなくて…うぅ…」

ニ体のエルフに囲まれたそいつは小さな身体を震わせ今にも泣き出しそうだった。

「おい」

ほんの気まぐれだった。ただ少しだけそのニ体が対抗色で癪に障っただけだった。

「ああん?」振り向いたラノワールのエルフが一瞬で硬直する。

「おまっ…光輪ggg狩り…」

「たかが1/1風情がニ体で何してんだ?チャンプブロックでもすんのか?」

「クソッ…行くぞ…」

そう言ってニ体のエルフはそそくさと退場した。

傍らで震えていたそいつを睨むと一瞬びくりとした後、消え入りそうな声でそいつは言った。

「あ、あの…ありがとうございます…」

「別にお前の為にやったわけじゃねえ。ただの1/1のコモンが調子乗ってんのが許せなかっただけだ。てかお前この辺(ストレージ)で見かけない顔だな。カスレアパックのやつか?」

「あの…ええと…」

もじもじしているそいつを見ていると先程のエルフ達がイジメたくなる気持ちが少しわかった気がした。

「まぁいい。お前なんて言うんだ」

「あ、あの…《水蓮のコブラ/Lotus Cobra(ZEN)》と言います…」

「水蓮か…また豪華な名前だな。ま、カスレアはカスレアらしく目立たないようにしてるんだな。じゃあな」

「ええと…はい…助けてくれてありがとうございます…」

そう言うとコブラは足早にその場を去っていった。

別に親切心でやったわけではないのにお礼を言われ光輪は複雑な気持ちになったが、ふと怒りの原因を思い出して先程の人助けなどどうでもよくなった。

「あの天使絶対に許さねえ!!あいつの光輪は俺が絶対に奪ってやる!!」

放課後のチャイムが鳴った。クリーチャーでごった返す廊下をかき分け光輪は謎の天使にやられたあの場所へと急いだ。




~~~~~



「お前か?最近我々『教団』に楯突いてる天使って奴は?」

真紅の龍が高速で一体の天使の周りを飛び回る。

「…どうかしら?」

目にも留まらぬ速さで動く龍に動じる素振りも見せず、彼女はただ冷静だった。

「新参が…いきなり神話になったからと調子に乗りやがって…」

「貴方も神話でしょう?《ボガーダンのヘルカイト/Bogardan Hellkite》さん?」

「お前に何がわかる!!かつては高額レアで、神話として再録されるも活躍の場が無いまま値崩れを起こした俺の気持ちが!!」

龍の動きが速さを増した。通常の生物では出せない『瞬速-インスタントタイミング-』の世界の速さだ。しかしそれにも彼女は動じない。

「お前も所詮5/5だ!!俺の炎で焼き殺しt―」

龍から放たれた五つの炎は目にも留まらぬ速さで広がり、集約して彼女に襲いかかった。

しかしそれらの炎は服に焦げ跡を残すのも叶わず目標を失い消滅した。

「炎が効かない!?しかし接近戦なら!」

瞬速の龍が鋭い爪で斬りかかる。しかし直前で謎の力がその爪を押し返した。

「ごめんなさい。私プロテクション(ドラゴン)なの」

そう言うと彼女は腰の剣を引抜き龍を一閃した。

「ぐはぁっ…クソ…同じ5/5で…神話なのに…許さん…許さんぞ《悪斬の天使/Baneslayer Angel(M10)》!!」

悪斬の天使は何も言わず、剣を収めただ冷静にボガヘルが墓地に置かれるのを眺めていた。




~~~~



「遅かったな!!」

「ご、ごめんなさい…ちょっと色々あって…」

「また絡まれたのか?ったく…神話レアなんだからもうちっとシャキッとしろよ」

「コブラは優しいものね。僕が一緒にいてあげれば良かったのだけど」

「まぁいい。本題に入ろう。つい先程ボガヘルがやられた」

「なんだと!?」

「ボガヘルさん…」

「あいつはスタンでは不人気とはいえかなりの実力者のはず一体誰が・・・」

「例の新参の天使らしい。しかも無傷で倒したそうだ」

「どうせ姑息な呪文でも使ったんだろう!!ノンパーマネントに頼るなど弱者のすることだ!!俺がどれほどのものか確かめてきてやる!!」

「あの…気をつけてね」

「僕が手を貸そうか?」

「いらん!!この《猛り狂うベイロス/Rampaging Baloths(ZEN)》様一人で充分だ!!天使め…首を洗って待っていろ!!」


続く
《迷いし者の番人/Shepherd of the Lost(ZEN)》はゼンディカー高校の優等生だった。飛行、先制攻撃、警戒といった優秀な能力でリミテッドでの活躍は評価に値するもので、構築組には入れなくともプロモカード化もされ、慎ましくも華のある幸せな毎日だった。

不幸な事といえば、今日“彼”に遭遇してしまったことだろうか。

「雑魚いな、所詮アンコモンか」

今しがた手に入れた新しい光輪を眺めながら去っていく彼の背中を訝しげに眺めながら迷いし者の番人は力なくその場に倒れた。

天使達が恐れるゼンディカー高校の問題視。《光輪狩り/Halo Hunter(ZEN)》である。

パワー6の攻撃力をちらつかせながらの威嚇は昼休みに賑わう廊下を何の不便も無く通るには充分だった。

人通りの少ない校舎外れのベンチに腰掛け、先ほど手に入れた新たな光輪を見ていると自然と口元がにやりと歪んだ。ここで昼食をとり、昼寝をしたり光輪を眺めたりして放課後まで時間を潰すのが日課だった。

彼の趣味は天使の光輪を集めることだった。自分にない美しさをもっていたから、ただ単に白く光る光輪がきれいだったから、自分の力を試したかったから、相手が白いから。今となっては何が本当の理由かわからない。いつの間にか光輪を集めることそのものが彼の生きがいになっていた。

放課後まで昼寝をしようと微睡んでいた彼の眠りを妨げたのは聞き覚えのある騒がしい羽音と甲高い声だった。

「あんたまた天使の光輪盗ったでしょ!!返しなさいよ!!」

取り巻きの騒がしい鳥達を従えた天使。《エメリアの天使/Emeria Angel(ZEN)》だ。今日もパンツが青い。

「盗ったんじゃない。狩ったんだ」

「どっちも同じじゃない!」

「狩られる程弱い方が悪いんだよ。ついでにお前も狩ってやろうか?」

「調子乗んな!」「お前にチャンプブロッカーの生き様見せたる!」「1/1飛行ナメんなよ!」

騒ぎ立てる取り巻きの鳥達を威嚇で黙らせる。

「俺がお前ら如きにブロックされるとでも思ってんのかよ。いいぜ、見せてやるよ。『光輪狩り』を」

エメリアの天使を庇おうとする鳥達を威嚇でいなし、一気に距離を詰める。間合いに入った瞬間力を込めて跳躍、エメリアの天使を視界に捉えつつ鳥達の羽が散らばる大地に着地する。

「―CIPがっ」一羽の鳥がそう言った時には既に手遅れだった。エメリアの天使目がけて光輪刈りから邪悪な力が放たれる。瞳に悲しみの表情を浮かべたエメリアの天使の喉元へ邪悪な力が届きそうになる刹那―別の方向から突如現れた光がエメリアの天使包みこみ、次の瞬間光輪狩りの能力はエメリアの天使を逸れ、標的を失った能力は狂ったように床を跳ね回り消滅した。

「大丈夫か!?」

突如標的を見失った能力、聞き覚えのある声、数秒前と比べて増えている鳥達。それらの要素で光輪狩りは誰の仕業かを理解した。

「これは《セジーリのステップ/Sejiri Steppe(WWK)》…《聖遺の騎士/Knight of the Reliquary(CON)》か」

言うが早いか、立ちすくむエメリアの天使の下へ一人の騎士が駆け寄った。

隣のアラーラ高校からの転校生。ゼンディカー高校に転入し、土地を操る能力でのし上がった実力派である。

「颯爽登場で王子様気取りかシンデレラボーイ!


「これ以上エメリアの天使を傷つけるというのなら…この僕が相手だ」

後ろを振り返り聖遺の騎士が剣を向ける。様子から察するにまだセジーリのステップを隠し持っているらしい。墓地に土地が落ちれば後々厄介になる。先程の上陸で鳥も増えている。正直分が悪い。

「仕方ねえ…ここは譲ってやる。じゃあな」

そう言って光輪はその場を後にした。力の抜けたエメリアの天使の「待ちなさい」という声は聞こえないふりをした。

「大丈夫?」聖遺の問いかけにエメリアの天使はこくんと頷いた。

「酷いなあいつ…天使を何だと思ってんだ。許せない」

「ありがとう。でも結局光輪は取り返せなかったな…あのバカ…」

その表情を見て、エメリアの天使の肩に手をかけようとした聖遺がそっと手を引くのを周りの鳥達は見て見ぬふりをした。


~~~


ゼンディカー高校を抜け出し、スタンダード街へ繰り出す。騒がしいエメリアの天使の光輪を取り損ねた光輪は、不完全燃焼になった猛りを治めるべく新たな獲物を探していた。

気の向くままに歩きまわり、日頃ぶらぶらしているストレージ通りを抜け、ショーケースモール方面へと足を運んだ。光輪でも迂闊に手が出せない『構築クラス』の連中が屯するショーケースモールだが、光輪を狩りそびれ治まらない血が猛者の世界へと向かわせた。

曲がり角を抜けると一際高級な場所へ出た。そこにいた白い羽と長い髪の毛のに一瞬で目を奪われた。

天使だった。

それが天使と気付くやいなや、光輪は彼女へ襲いかかっていた。力一杯飛び上がり、彼女目がけて能力を発動し―

勢い良く着地したが何も起こらない。

何が起こったのか確認するよりも早く鋭い一撃が光輪狩りの胸を突いた。

―先制攻撃!?

能力を発動した勢いが手伝って豪快に地面に倒れこむ。

外見と直感で彼女が天使だということはわかった。では何故能力が発動しないのか。

薄れ行く意識の中彼女が口を開いた。

「ごめんなさい。私『プロテクション(デーモン)』なの」



続く


第一話「光輪君と悪斬ちゃん」


原案…WARAXIS

制作…ワープワールド教団、光輪君と悪斬ちゃん製作委員会


推敲も校正もしてないから誤字脱字は許してちょ

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